JICA、日本造船業界のフィリピン進出を支援
2013/05/08
活性化・国際化や現地の雇用創出等に貢献
セブ常石造船の成功事例・地域貢献も参考に
国際協力機構(JICA)は、包摂的な成長と雇用促進の観点から、製造業振興をフィリピンでの重点事業の一つとして位置付けている。
製造業のなかでも、特に造船業に関しては、労働集約産業として多くの雇用を創出し、フィリピンの地理条件を生かしつつ、貧困削減に貢献する産業として注目し、日本企業のさらなる投資誘致に注力している。
2012年11月にはフィリピン貿易産業省からの要請に基づき、フィリピンにおける造船業の現状セミナーを政府機関に対して行い、2012年末から今年にかけて、国土交通省や独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)などの協力を得て、日本の造船企業、舶用機器メーカー向けのセミナーと現地視察も開催した。
世界の造船市場は、約9割を日本、中国、韓国の3ヵ国が占めるが、近年、中国と韓国の建造量が拡大しており、相対的に日本は地位を低下させている。こうした状況を背景に、2011年7月に国土交通省海事局が取りまとめた報告「総合的な新造船政策」でも、日本企業は受注力を強化するため海外での生産を含む戦略的な海外進出を図るべきと提言されている。一方、フィリピンの造船産業は、日中韓に次ぐ第4位の建造量を誇り、フィリピン政府としても造船業振興を積極的に推進している。
JICAフィリピン事務所では、事業の新展開を目指し海外展開を希望しながらも、情報収集力が不足している日本の中小造船関連企業に対し、進出先としてのフィリピンの魅力を紹介するためのセミナーを、2012年12月に造船関連企業が集積する瀬戸内地区(広島市)、近畿地区(大阪市)で開催した。広島会場には、造船企業、機器メーカー、その他団体から53人、大阪会場には70人が参加した。
セミナーでは、すでにフィリピンに進出し、フィリピン政府からも社会貢献度や地域活性化の面で高い評価を受けている常石造船(本社:広島県福山市)が、フィリピンの造船産業の状況を紹介した。また、JICAフィリピン事務所の佐々木隆宏所長が、フィリピンの造船業に直結する地理的条件や、若く豊富な労働力などについて紹介した。続いて、フィリピン貿易産業省投資委員会に派遣されている大嶋正治JICA専門家が、フィリピンの投資優遇措置などを紹介した。参加者からは製鉄所の有無など、現地の状況や、視察の可能性などに関する質問が相次いだ。
2013年3月中旬に開催したフィリピン視察には、広島、大阪のセミナーに参加した企業を中心に、造船関連企業などから28人が参加した。この視察は、フィリピン事務所のネットワークを生かし、JICA専門家に加え、在フィリピン日本大使館、国際協力銀行(JBIC)、ジェトロ、日本人商工会議所などの日本の関係機関も巻き込んだオールジャパン体制で行った。また、参加者の要望を積極的に取り込み、(1)フィリピン政府関係省庁による説明、(2)日系進出企業(銀行、商社、鉄鋼メーカーなど)とのネットワークづくり、(3)日系工業団地の視察、(4)常石造船など比較的大規模な外資系造船所視察、(5)地元資本の小規模な造船所視察などを盛り込んだ。
マニラ湾周辺の現地造船業の視察では、二つのグループに分かれ、一方は、フィリピンでは比較的大規模な造船所であるシンガポール系企業のケッペル造船所を見学した。マニラから車で西に3時間、ルソン島西部に位置する、天然の良港であるスービックで造船を行う魅力について、同社の現地法人社長自らが語り、造船企業を中心とした日本の参加者からは、資材の仕入れ先、人材育成、フィリピン政府の対応に関する質問が相次いだ。
もう一方の舶用機器メーカーを主とするグループは、船舶修繕を主に行っている現地資本の造船所を見学した。日本では見られなくなった「手作り感」のある造船所に、40年来造船業に携わっているという参加者が「終戦直後の日本の造船所を見るようだ」と感慨深げに語る場面もあった。企業風土は異なるが、造船所の買収などにより、比較的早く現地で事業が始められるため、進出を検討したいとの声も上がった。その後訪れたマニラ首都圏内にある工業団地では、すぐにでも入居が可能なレンタル工場に多くの参加者の関心が集まった。
さらに、セブ島にある常石造船セブ工場にも足を延ばした一部の参加者からは、同社の積極的な海外展開や小学校・病院建設支援といった地域貢献に対し、感嘆の声が上がった。
また、マニラで開催した、日本・フィリピン政府関係機関やフィリピン企業、進出済みの日系企業を招いた会合は、「次につながる」と参加者から好評を得た。フィリピン経済区庁は、フィリピンに進出している日系企業から絶大な信頼を寄せられているが、ミーティング後の懇親会で、リリア・デ・リマ長官自ら、参加者にフィリピンに進出した際の全面的協力を約束するなど、スタッフが一丸となって積極的に誘致に向けた勧誘を行った。
JICAは、企業活動が地域開発にもつながるようなビジネスモデルを持った企業の進出を期待している(13年5月7日の国際協力機構トピックスより)。