2012年の経常収支黒字、2%増の71億ドル
2013/03/24
OFW送金の威力、貿易赤字額の倍以上に
経常黒字対GDP比率は2.8%(前年3.1%)
フィリピン中央銀行(BSP)は3月22日に、12年第4四半期及び年間(12年1月~12月)の国際総合収支を発表した。
フィリピンの貿易収支は慢性的赤字にもかかわらず、赤字額を大幅に上回る海外フィリピン人就労者(OFW)送金により、経常収支は黒字というパターンが定着している。OFW送金の威力による経常収支の黒字継続がフィリピン経済の特色であり、ペソ高、株式市場の高パフォーマンスの大きな要因となっている。
[2012年第4四半期の国際総合収支動向]
下表の通り、経常収支の黒字は前年同期比0.8%減の22億0,800万米ドル、対GNI比、対GDP比は2.4%、3.1%で、それぞれ前年同期より低下したが、依然として黒字が続いている。海外フィリピン人就労者(OFW)送金が同8.0%増の63億0,300万米ドルに達し、貿易赤字の32億6,000万米ドル(物資とサービスの合計:以下同様)のほぼ倍となり、経常収支黒字の原動力となっている。
国際総合収支(BOP)の黒字は7.4倍の34億0,500万米ドルと急増。第4四半期のBOP黒字急増は、OFW送金の送金増にくわえ、外国人の証券投資拡大や、居住者が前年同期の純貸出から純借入に転じたことなどによる。
[2012年年間の動向]
年間の経常収支の黒字は前年比2.2%増の71億2,600万米ドルに増加した。経常収支黒字の対GNI比、GDP比は2.2%、2.8%で各々前年の2.3%、3.1%から僅かに縮小した。
貿易赤字が同3.3%減の113億米ドルに縮小する一方、OFW送金が同6.5%増の233億5,200万米ドルに増加、貿易赤字の倍以上に達したことで、経常収支黒字が一段と拡大した。
ただし、金融収支の赤字が拡大したことなどで、2012年の国際総合収支の黒字は同19.0%減92億3,600万米ドルと二桁減少した。対GNI比、対GDP比は2.8%、3.7%で各々前年の3.8%、5.1%を下回った。
[国際総合収支発表について]
中央銀行は国際収支(BOP)積み上げ方式統計に関して、2003年10月にそれまでの毎月発表から四半期毎の発表へ変更することを決定した。これは、統計内容の確認、モニター、調整を強化し、より精度の高い統計を発表することが目的である。
ただし中央銀行は、毎月、純外貨準備高(NIR)の変動から算出した国際総合収支推計速報値を発表している。ちなみに、最新数値は、12月19日に発表された2012年11月分速報値。それによると、2012年年初11カ月間の黒字は前年同期比16.5%減の85億9,600万ドルであった。しかし、上記のような積み上げ方式の国際総合収支発表は四半期に1回のみである。
2012年第4四半期及び年間の国際総合収支内訳(単位:百万米ドル)
項目 | 第4四半期 | 12年1~12月 | ||||
年 | 12年 | 11年 | 伸び率(%) | 12年 | 11年 | 伸び率(%) |
経常収支 | 2208 | 2225 | -0.8 | 7126 | 6970 | 2.2 |
対GNI比(%) | 2.4 | 2.7 | - | 2.2 | 2.3 | - |
対GDP比(%) | 3.1 | 3.6 | - | 2.8 | 3.1 | - |
物資・サービス貿易収支 | -3260 | -3195 | 赤字2.0%拡大 | -11300 | -11690 | 赤字3.3%縮小 |
対GNI比(%) | -3.5 | -3.9 | - | -3.4 | -3.9 | - |
対GDP比(%) | -4.5 | -5.1 | - | -4.5 | -5.2 | - |
輸出 | 16112 | 13486 | 19.5 | 64884 | 56134 | 15.6 |
輸入 | 19372 | 16681 | 16.1 | 76184 | 67824 | 12.3 |
物資貿易収支 | -4701 | -4905 | 赤字4.2%縮小 | -15205 | -16973 | 赤字10.4%縮小 |
サービス貿易収支 | 1441 | 1710 | -15.7 | 3905 | 5283 | -26.1 |
OFW送金額合計 | 6303 | 5837 | 8.0 | 23352 | 21924 | 6.5 |
うち銀行経由分 | 5821 | 5360 | 8.6 | 21393 | 20117 | 6.3 |
国際総合収支 | 3405 | 458 | 643.4% | 9236 | 11400 | -19.0 |
対GNI比(%) | 3.7 | 0.6 | - | 2.8 | 3.8 | - |
対GDP比(%) | 4.7 | 0.7 | - | 3.7 | 5.1 | - |
(出所:BSP資料より作成、注:12年は全て速報値)
[対外収支の長期的な動き]
上記のように、フィリピンの貿易収支は慢性的赤字であるものの、経常収支は2003年に黒字転換、その後黒字は拡大を続け、2009年には93億5,800万米ドルという史上最高の黒字を記録、対GNI比は4.2%、対GDP比は5.6%に達した。その後も高水準の黒字を維持している。
一方、国際総合収支は2005年以降黒字が定着、2010年に143億800万米ドル、対GNI比5.4%、対GDP比7.2%という史上最高の黒字を計上した。貿易収支の赤字をOFW送金が完全に埋め切り、経常収支や国際総合収支を黒字に維持するというパターンが定着している。
フィリピン対外収支推移(単位:百万米ドル)
年 | 03年 | 04年 | 05年 | 06年 | 07年 | 08年 | 09年 | 10年 | 11年 | 12年 |
貿易収支 | -7814 | -7461 | -9113 | -6595 | -6142 | -11725 | -6728 | -8231 | -11690 | -11300 |
対GNI比 | -7.6% | -6.6% | -7.0% | -4.3% | -3.3% | -5.3% | -3.0% | -3.1% | -3.9% | -3.4% |
対GDP比 | -9.3% | -8.2% | -8.8% | -5.4% | -4.1% | -6.8% | -4.0% | -4.1% | -5.2% | -4.5% |
経常収支 | 285 | 1625 | 1980 | 5341 | 7112 | 3627 | 9358 | 8922 | 6970 | 7126 |
対GNI比 | 0.3% | 1.4% | 1.5% | 3.5% | 3.8% | 1.7% | 4.2% | 3.4% | 2.3% | 2.2% |
対GDP比 | 0.3% | 1.8% | 1.9% | 4.4% | 4.8% | 2.1% | 5.6% | 4.5% | 3.1% | 2.8% |
国際総合収支 | 115 | -280 | 2410 | 3769 | 8557 | 89 | 6421 | 14308 | 11400 | 9236 |
対GNI比 | 0.1% | -0.2% | 1.9% | 2.5% | 4.6% | 0.0% | 2.9% | 5.4% | 3.8% | 2.8% |
対GDP比 | 0.1% | -0.3% | 2.3% | 3.1% | 5.7% | 0.1% | 3.8% | 7.2% | 5.1% | 3.7% |
(出所:中央銀行資料より作成)