田中JICA新理事長、フィリピンで多面的活動
2012/05/08
アキノ大統領ら要人と面談、ADB総会出席など
ミンダナオ紛争地域視察、MILF副議長らと討議
国際協力機構(JICA)の田中明彦理事長は、4月30日~5月6日フィリピンに出張し、アキノ大統領と面談するとともに、ミンダナオ紛争影響地域やマニラ首都圏のJICA支援案件を視察した。
また、5月4日、マニラで開催されたアジア開発銀行(ADB)の年次総会に出席したほか、同会議のためにマニラを訪問中の各国の閣僚や国際機関の代表らと会談した。
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<ミンダナオ和平プロセスとJICA支援の状況を確認>
5月1日、ミンダナオ島では紛争影響地域の中心にあるコタバトを訪問し、ムスリム・ミンダナオ自治政府(ARMM)のムジブ・ハタマン知事、モロ・イスラム解放戦線(MILF)のガザリ・ジャアファ副議長、国際監視団(IMT)のアブドゥル・ラヒム団長らと面談した。現地関係者からは、4月24日にフィリピン政府とMILFとの間で今後の和平交渉における基本方針の合意がなされたことを受け、真剣な和平への希求と、和平協定に向けた前向きな発言があった。田中理事長は、将来を担う人材の育成やコミュニティー・レベルの小規模インフラ整備など、紛争影響地域における日本のODAの貢献とともに、IMTに派遣したJICA職員の活動ぶりを視察し、JICAが和平当事者双方からの信頼を得て、和平プロセスをバックアップする重要な役割を果たしていることを確認した。
田中理事長は5月2~3日、マニラ首都圏で、運輸・交通整備、洪水制御など基幹インフラを中心にJICAの有償資金協力案件を視察した。近年の好調な経済の中、新規投資が進んでいない都市インフラ整備の必要性を確認するとともに、住民移転や居住地整備などの課題にも接した。また、JICAが技術協力により支援しているフィリピン沿岸警備隊を訪問し、過去の支援により地道な能力向上が図られている様子も視察した。
<アキノ大統領と面談>
ミンダナオやマニラ首都圏でのJICA案件の視察の結果も踏まえて、5月4日アキノ大統領と面談し、今後の協力について協議を行った。
田中理事長はアキノ大統領に対し、ミンダナオ島訪問の所感に加え、現地の和平が達成されれば、紛争影響地域への支援の拡充を検討したい旨伝え、和平達成に向けた大統領の取り組みへの期待を述べた。また、マニラ首都圏を中心にインフラの不足が目立つ中、アキノ政権が進めるインフラPPP(官民連携)へのJICAの協力に言及。大統領は、ミンダナオ島の和平に関する人材育成の必要性に同意、またマニラ首都圏では公共交通の改善が急務であると応じた。
.<ADB総会に出席、各国閣僚、援助機関トップとも精力的に対話>
理事長は、ADB総会に出席するとともに、総会期間中、日本のODAの主要な相手国であるインドネシアやインドの財務大臣と今後の協力などについて協議を行った。また、連携・協調融資の相手先であるADBや米州開発銀行(IDB)、フランス開発庁(AFD)、ドイツの復興金融公庫(KfW)など、各機関の総裁らと会談し、各地域の情勢や、今後の連携方針について意見を交わした。
今回、ADB総会初の試みとして、5月3日と5日に各国代表団トップ(財務大臣)を対象としたセミナーが開催された。3日のセミナーではゲストスピーカーとして米国スタンフォード大学のロバート・マッキノン教授が、5日には田中理事長が招待され、セザール・プリシマ・フィリピン財務大臣、黒田ADB総裁ほか約30人の各国代表に対し発表を行った。田中理事長は、2050年のあるべきアジアに向けて、すべての人々が恩恵を受ける成長を促進させるには、金融アクセスの改善、社会的セーフティー・ネットの充実、医療保険・年金制度の改善、税制改革が必要であると指摘するとともに、これらの前提となる平和の重要性を強調した。
.<インドネシア、インド両国財務大臣とインフラ整備の必要性で合意>
5月3日には、アグス・マルトワルドヨ・インドネシア財務大臣と面談。理事長は、マルトワルドヨ財務大臣から説明された「2011~2025年の経済開発促進のためのマスタープラン」を踏まえつつインドネシアを支援したいと表明。また、インドネシアの対外援助機関設立に対するJICAの技術協力の進捗についても討議した。
5月4日に行われたインドのプラナム・ムカジー財務大臣と田中理事長の面談では、インドの開発の重点とJICAのビジョンがインクル―シブ(すべての人々が恩恵を受ける)という点で共通していることを確認。ムカジー財務大臣は、地方との連結性の強化、雇用の促進、教育を受ける権利の拡大など、社会セクターへの投資の充実とインフラ整備の重要性を強調した。これに対して理事長は、インフラの整備と社会セクターの開発はJICAの重点分野であること、またインドに対しては関心の高い日本企業が多数あることから、インドの成長とそれに貢献する日本企業のWin-Winの関係構築を目指したいとの意向を表明。そのためには投資環境の整備が重要であることを相互に確認した
<黒田ADB総裁と会談>
理事長は5月5日にADB黒田総裁とも会談を行い、地域全体として順調な経済成長に耳目が集まる傾向があるが、いくつかの国では成長が停滞していることにも注意が必要であることを改めて確認した。また、黒田総裁は、新たに合意されたアジア開発基金での増資資金も活用しつつ、インクル―シブ・グロース(すべての人々が恩恵を受ける成長)に重点的に取り組んでいきたいと、ADB支援の今後の方向性を述べた(以上、12年5月7日のJICAトピックスより)。
<5月5日に記者会見>
理事長は5月5日16時過ぎから、フィリピン訪問に関する記者会見を行った。上記のようなフィリピンでの活動を紹介するとともに、技術協力などによりフィリピンの官民連携(PPP)インフラ事業を積極支援していく意向などが表明された。そして、現在8件のPPP事業に関するフィジビリティ―・スタディーが行われていることが紹介された。
フィリピンへの巡視船供与に関する質問に対しては、経済協力の一環として検討されてはいるが、対中国問題など政治問題に立ち入る意図はなく、(供与された場合でも)船舶の利用方法などはフィリピン政府次第であると答えた。2012年度の対フィリピンODA案件や供与額に関する質問に対しては、今後の交渉によって決定されると答えた。