フィリピンに対する渡航情報(危険情報)発出

2012/02/01

ミンダナオの一部が「渡航の延期をお勧めします」
 

 2月1日に日本外務省は、フィリピンに対する渡航情報(危険情報)を発出した。その中の地域情勢は以下の通り。


(1)「渡航の延期をお勧めします」(継続):ミンダナオ地域(南サンボアンガ州、北サンボアンガ州、サンボアンガ・シブガイ州、西ミサミス州、南ラナオ州、北ラナオ州、コタバト(旧北コタバト)州、マギンダナオ州、スルタン・クダラット州、サランガニ州、バシラン州、スールー州及びタウイタウイ州)(周辺海域を含む)

(2)「渡航の是非を検討してください」(継続):ミンダナオ地域の中で上記(1)の「渡航の延期をお勧めします。」発出地域以外の地域(カミギン州、カガヤン・デ・オロ市及びダバオ市を除く)及びパラワン州(最北部を除く)(周辺海域を含む)

(3)「十分注意してください」(継続):上記地域以外のマニラ首都圏を含む全地域:。

概況としては、以下のように記されている。
(1)政治情勢
 フィリピンでは、昨年6月に就任したアキノ大統領が、国民の高い支持率を背景に、汚職、腐敗の撲滅、治安強化、及びミンダナオ和平推進を重要政策として掲げ、これまでのところ安定的に政権を運営してきている。
 こうした中、昨年11月、アキノ政権は、2007年に実施された上院選挙で票を不正に操作した選挙妨害の疑いで、アロヨ前大統領を入院先の病院で逮捕、勾留した。これは、アロヨ前政権の不正追及を公約としていた現政権の汚職、腐敗撲滅への強い決意の表れと見られる。
 なお、アロヨ前大統領訴追の過程で最高裁との対立構図が顕在化し、昨年12月にはコロナ最高裁長官の弾劾が下院で発議され、今年1月16日から上院で弾劾裁判が開始された。この弾劾裁判は、国民の大きな関心を集めており、今後の経過が注目されている。

(2)ミンダナオ情勢
 アキノ政権は、ムスリム・ミンダナオ自治地域(ARMM:南ラナオ州、マギンダナオ州、バシラン州、スールー州、タウイタウイ州)政府の改革の必要性を強調し、昨年8月に予定されていたARMM選挙を2013年5月まで延期し、その間は大統領による暫定知事他の任命が可能となり、昨年12月22日、ハタマンARMM暫定知事、バイノン・カロン同副知事が就任した。
 こうした中、中断していたミンダナオ和平交渉は2011年2月に再開され、8月には日本が仲介してアキノ大統領とムラド・モロ・イスラム解放戦線(MILF)中央委員会議長との間のトップ会談が日本で実現し、その後も、マレーシアで和平交渉が行われるなど、最終合意へ向けた動きが期待されている。一方、MILFの中でも和平交渉に懐疑的なグループがMILFから分派し新たな組織を立ち上げるなど、引き続き注目すべき動きがある。
 バシラン州、マギンダナオ州などでは、国軍とMILFとの間での交戦に加え、サンボアンガ・シブカイ州では、MILFによる政府部隊の襲撃やMILFとMILF分派との間の交戦など、これらの地域における治安情勢については引き続き不安定な状況と判断されるので、注意が必要である。
 また、2009年11月、マギンダナオ州で地元政治家の家族、支持者及び報道関係者数十人が武装集団に虐殺された事件を踏まえ、同州並びに近隣のスルタン・クダラット州、コタバト州(旧北コタバト州)及びコタバト市に発出された非常事態宣言は、現在も継続されている。

(3)テロ情勢
 フィリピンには、イスラム系反政府勢力(モロ・イスラム解放戦線(MILF)、モロ民族解放戦線ミスワリ派(MNLF-MG)、イスラム過激派勢力アブ・サヤフ・グループ(ASG)、ラジャ・ソレイマン・イスラム運動(RSIM)等)や共産系反政府勢力(新人民軍(NPA))等多くの組織が存在し、これまで、無差別爆弾事件、身代金目的の誘拐事件等のテロ活動に加え「宗教税」、「革命税」を徴収するとの名目での恐喝等組織的な活動を行っている。
 この中でも、ASGは、バシラン州やスールー州で国軍と交戦しており、地元住民の拉致、外国人の誘拐、地元企業襲撃等の事件を起こしています。また、NPAも、フィリピン政府との間で和平交渉中であるものの、同交渉を有利に運ぶためにミンダナオ地域、ルソン地域及びビサヤ地域の広い範囲で国軍と交戦し、「革命税」の支払を拒否する企業の襲撃を継続しており、注意が必要である。
 さらに、東南アジアの地域テロ組織であるジュマ・イスラミーヤ(JI)は、フィリピン南部のミンダナオ地域にも拠点を有しており、フィリピン固有のイスラム系反政府勢力と連携しながら軍事訓練やテロ活動を行っているとされている。
 このような状況下で、ミンダナオ地域において、サンボアンガ市内、コタバト市内での爆発事件、幹線道路沿いに仕掛けられた爆弾や手りゅう弾投てきによる爆発が相次いで発生している。また、コンポステラ・バレー州ではNPAが仕掛けた即製爆弾で国軍兵士が負傷する等の事件も発生している。さらに、マギンダナオ州では、2009年に民家に手りゅう弾が投てきされて死傷者が発生したり、路上で即製爆弾が発見される等の事件が相次いで発生しているので、引き続き高いレベルの警戒が必要である。

(4)一般治安情勢
 国家警察は、密造された銃がフィリピン全土で約60万丁出回っており、犯罪に用いられているとの見方を示している。実際、銃器は容易に入手可能であり、銃器を用いた事件が多く発生している。一方、殺人、強盗、傷害事件等の犯罪で犯人が逮捕されるのは全体の15%程度にとどまっているのが実情である。
 2010年8月にマニラ市内観光名所(リサ-ル公園)で発生した香港人観光バス乗っ取り事件以来、世間の注目を引くような大きな犯罪・事件は発生していないが、治安当局の規律は必ずしも高いとは言い切れず、対応能力についても日本や先進諸国に比べると不安を払拭するまでには至っていない。
 日本人が被害者となった事件も、殺人事件だけで、2008年7件、2009年3件、2010年5件、2011年1件(いずれも未遂を除く)発生しており、また、強盗等凶悪犯罪(航空便で深夜到着し市内へ移動中の車輌強盗被害,マニラ首都圏でのタクシー強盗、睡眠薬強盗を含む)オートバイによるひったくり、買春行為絡みの恐喝被害なども大使館にそれぞれ複数報告されている。
 また、身代金目的の誘拐の脅威がフィリピン全土、特にミンダナオ地域において高くなっているので注意が必要である。
 

(5)その他
 フィリピンでは、地震、火山活動、台風等の自然災害の発生も少なくない。
 火山活動については、2009年12月、アルバイ州のマヨン山で火山活動が活発化し、周囲7~8キロの立入りが一時期禁止される警報が発出されたり、2010年6月及び2011年4月には、バタンガス州タガイタイ地域のタール山で火山活動の活発化を示す兆候があるとして警戒度が一時的に引き上げられていた。
 台風についても、フィリピン近海で発生した台風が急速に勢力を増してフィリピンに接近し、国内各地で地滑りや洪水などの甚大な被害を出す事例が度々発生し、2011年も、9月から10月にかけてルソン島を横断した台風が各地に大きな被害をもたらした。また、12月、ミンダナオ地方を12年ぶりに直撃した台風21号は、死者1,200名超、被災者70万人超という甚大な被害をもたらした。
 断続的な降雨、集中豪雨によってマニラ首都圏の道路が冠水し、交通機関に大きな支障を来したり、多数の現地住民が避難を余儀なくされた事例もある。
 これらの自然災害に際しては、外部と連絡が取りづらくなったり、物資の供給が十分に及ばなくなることも十分予想されるので、日頃から緊急事態に備えた携行品の備蓄などを心がけられたし。

 また、滞在にあたっての注意事項として、以下のようなことなどが記載されている。

(1)渡航者全般向けの注意事項
ア 基本的な心構え
(ア)人通りの少ない場所やスラム街等犯罪が発生しやすいと考えられる危険地帯へは立ち入らない。
(イ)特に、夜間の路上の一人歩きは避ける。また、日中に徒歩で外出する場合も、繁華街であっても、身辺には十分注意する。
(ウ)深夜に到着する航空機はできるだけ利用しない。
(エ)夜間の移動(空港から市内への移動を含む)は、自家用車、所属先企業を含む組織・団体の車両,信頼のできるホテル等と契約しているタクシーを利用する。
(オ)タクシーを利用する場合には、利用する車の会社の側面に記載されている車体番号、携帯番号を控え、所属先、家族、知人等に連絡するよう心がける。
(カ)周囲の雰囲気に溶け込むような服装を選ぶ。
(キ)犯罪を誘発する人目を引く立ち振る舞いは厳に慎む(人前で大金を見せ、札びらを切るような態度をとる、フィリピン人を人前で罵倒する等)。
(ク)不必要な大金を現金で持ち歩かない。
(ケ)観光案内等言葉巧みに話しかけてくる人物がいても、特に日本語で話しかけてくる場合には、安易に応じない。
(コ)山間部や地方への旅行は、事前に安全情報を収集した上で実施する。また、運転手に対してはスピードの出し過ぎや無理な追い越しをしないよう安全運転を徹底させる。

イ テロ・誘拐への備え
(ア)テロへの備え
  日頃から治安情勢に関心を持って報道等に注意し、テロの標的となり得るような軍関係施設には近づかないように努め、外国人を含む不特定多数の人が集まる場所(公共施設、レストラン、ショッピングモール、デパート、カフェ、ナイト・クラブ等)や主要外国関連施設(例えば各国の在外公館)を訪れたり、公共交通機関などを利用したりする際には、身の回りに注意されたし。
(イ)誘拐への備え
(1)目立たないようにする。
(2)行動を予知されないように、パターン化しない。
(3)無関係な人に行動予定を安易に知らせない。
(4)不審な兆候(少しでも周囲に普段と異なる点)がないか常に注意を払う。
(5)一人で外出する等の単独行動はできるだけ慎む。
(6)子供を一人で遊ばせたり、外出させたりしない。

ウ 海外旅行保険への加入

エ 滞在期間の遵守と計画的な滞在
  観光等を目的として無査証でフィリピンに滞在できる期間は、到着日を含めて21日までとなっており、21日を超えて滞在する場合には、入国管理局で延長手続を行う必要がある。この手続を行わずに不法滞在状態に陥り、かつ、無計画な費消の結果、所持金が底をつき、その日の生活にも窮するケース見られる。定められた期間内に出国する、延長を希望する場合には必要な延長手続を行う等、計画的な滞在を心がける。

オ 外貨持込み・持ち出しへの注意
フィリピンへの外貨持込み・持ち出しには制限があり、外貨については1万米ドル以上の申告が義務づけられ、現地通貨(ペソ)についても1万ペソ以上の持出し・持ち込みは禁止されている。、出国時に多額のペソ現金を持ち出そうとして出国を差し止められたとする邦人からの連絡・相談が大使館にも複数件寄せられている(12年2月1日の日本外務省海外安全情報より抜粋)。