フィリピン、事業展開有望性14位と低評価

2011/12/02

昨年14位と同順位:JBIC日系製造業調査
16位カンボジア、19位ミャンマーが接近
1位中国、2位インド、3位タイ、4位ベトナム

  国際協力銀行(JBIC)は、日本製造業企業の海外事業展開の動向に関する2011年度アンケート調査を実施し、12月2日にその結果を発表した。今回の調査は、2011年7月に調査票を発送し、7月から9月にかけて回収したものである(対象企業数977社、有効回答数603社、有効回答率61.7%)。この調査は、海外事業に実績のある日本の製造業企業の海外事業展開の現況や課題、今後の展望を把握する目的で1989年から実施しており、今回で23回目となる。


 今回の調査結果の主要ポイント(例年質問事項)は以下のとおり。
1.中堅・中小企業も含め海外事業の強化姿勢が鮮明となる
2.海外事業を強化する企業は国内事業も維持・強化する傾向にある
3.売上高、収益満足度は、国別ではタイ、インドネシア、業種では鉄鋼、石油・ゴム、自動車が高い

 ※今回の調査では今夏の豪雨により引き起こされたタイの洪水の影響は含まれていない。回答企業の半数近くがタイに生産拠点を有しており、日本製造業企業の生産活動への今後の悪影響については引き続き注意が必要と見られる。
4.中期的有望事業展開先国では中国、インドの得票率が頭打ちとなる
 中期的有望事業展開先国では引き続き中国が1位、インドが2位となったが得票率は頭打ちとなった。中国では法制運用などが課題とされる中、労働コストの上昇が課題として、より一層認識されている。インドでは、引き続き多くの企業がインフラの未整備を課題とするとともに、法制運用の不透明さ、徴税システムの複雑さなどの具体的な課題もインドの関心が高まるにつれ認識されつつある。
5.中期的有望事業展開先国において新興国ではインドネシア、ブラジルが躍進
 中期的有望事業展開先国においてタイ、インドネシア等の新興国が順位を上げる中、具体的な事業計画を有する企業数でみると、特に、インドネシア、ブラジルの躍進が目立った。
 前回は20位以内にバングラデシュとミャンマーが登場したが、今回はカンボジアが初登場、いきなり16位にランクされた。これら3カ国を挙げた企業の多くは、有望理由に「安価な労働力」を指摘。人口約1億5000万人を抱えるバングラデシュは、「現地マーケットの今後の成長性」も期待されている。また、カンボジアがはじめて20位以内にランクインした。
6.新興国を中心にM&Aの取組みが増加。
 「M&Aへの取組み」が前回調査の36社から70社へ倍増した。増加分(34社)のうち、新興国向けは21社であり、インド(6社増)、ブラジル(6社増)の寄与が大きい。なお、業種別では化学(17社)、食料品(16社)が活発であった。

 今回は、上記の例年質問事項にくわえ、東日本大震災後の対応、インフラ事業の海外展開に関しての質問が行われた。
 それによると、東日本大震災により、日本製造業企業の7割が部品調達に影響を受けたものの、主に自社内または日系他社からの代替調達にて対処した。また、震災は日本の製造業企業にとってサプライチェーンを見直す契機となった。なお、電力供給制約は長期化、深刻化する場合には一部企業に国内事業の縮小を促す懸念がある。

 一方、インフラ事業の海外展開に関する主要ポイントは以下の通り。
A.インフラの海外展開は約3割の企業が商機と認識している一方、既参入企業は一部に留まる
 インフラの海外展開を商機とする企業は回答企業(603社)のうち192社(回答比率31.8%)となったが、部品・部材の納入等を含めても参入済み企業は126社に留まった。一方、商機と回答した企業で未参入の企業は76社あり、商機と回答した企業の約4割を占める。分野別では再生可能エネルギーや水ビジネス等に関心が集まり、業種別では要素部品への期待から、主に化学、電機・電子関連の企業から関心が寄せられた。
B.インフラの展開先国では市場の成長性の高い新興国が人気。環境関連事業分野では米国も有望
 旺盛なインフラ需要を背景に分野横断的に中国、インドだけでなく、ベトナム、インドネシア、タイ、ブラジルなど市場の成長性の高い新興国に人気が集まった。一方、先進国では、スマートグリッド、スマートコミュニティ、再生可能エネルギーなどの環境関連事業分野において米国も有望視されている。
C.日本製造業企業によるインフラの海外展開は主に部品・機器販売で対応
参入済み企業が今後インフラの海外展開を進めるにあたり、多くは部品・機器販売で対応し、運営・管理・保守まで取組もうとする動きは少ない。
D.インフラの海外展開の課題は「信頼できる現地パートナーの確保」、「現地ニーズへの適合」、「コスト競争力」

  なお、フィリピンは中期的有望事業展開先として、2001年度にベストテン入りを逃して以来、2008年度まで順位の下落傾向が続いてきた。特に、2008年度は、21位とベスト20からも転落した。2009年度の順位は13位へと回復したが、2010年度、2011年度ともに14位にとどまっている。2011年度の得票率も3.0%と非常に低水準。中国の72.8%、インドの58.6%のみならず、タイの32.5%、ベトナムの31.4%、インドネシアの28.6%というASEAN主要国にも大きく水を開けられている。
 上記の通り、前回20以内に初登場したバングラデシュの16位、ミャンマーの19位、今回は初登場のカンボジアの16位にも追い上げられるかたちとなっている。

 
 中期的にフィリピンでの事業を強化・拡大方針比率は43.9%、現状維持が55.6%、縮小・撤退比率が0.6%であった。強化・拡大方針比率は、ASEAN主要国ではシンガポールでの42.4%に次ぐ低さであった。

 長期的(10年程度)有望事業展開先に関しても、フィリピンに対する評価は低い。速報資料では10位までの順位が明示されているがフィリピンはランクインしていない。一方、タイは3位、ベトナムは4位、インドネシアは5位、マレーシアは9位と他のASEAN主要国はベストテン入りしている(11年12月2日のJBIC発表より)。



日本製造業企業の中期的有望事業展開先国・地域の推移(1企業5カ国までの複数回答)

中期的(今後3年程度)
調査年度 08年度 09年度 2010年度 2011年度
総回答社数 471社 480社 516社 507社 得票率
1位(票数) 中国(297社) 中国(353社) 中国(399社) 中国(369社) 72.8%
2位 インド(271社) インド(278社) インド(312社) インド(297社) 58.6%
3位 ベトナム(152社) ベトナム(149社) ベトナム(166社) タイ(165社) 32.5%
4位 ロシア(130社) タイ(110社) タイ(135社) ベトナム(159社) 31.4%
5位 タイ(125社) ロシア(103社) ブラジル(127社) インドネシア(145社)
ブラジル(145社)
28.6%
6位 ブラジル(91社) ブラジル(95社) インドネシア(107社)
7位 米国(78社) 米国(65社) ロシア(75社) ロシア(63社) 12.4%
8位 インドネシア(41社) インドネシア(52社) 米国(58社) 米国(50社) 9.9%
9位 韓国(27社) 韓国(31社) 韓国(30社) マレーシア(39社) 7.7%
10位 台湾(22社) マレーシア(26社) マレーシア、台湾(26社) 台湾(35社) 6.9%
フィリピン順位 21位(7社) 13位(14社) 14位(14社) 14位(15社) 3.0%

 


日本製造業企業の長期的有望事業展開先国・地域の推移・詳細(1企業5カ国までの複数回答)

長期的(今後10年程度)
調査年度 08年度 09年度 2010年度 2011年度
総回答社数 379社 404社 438社 420社 得票率
1位(票数) インド(273社) 中国(284社) インド(328社) インド(333社) 79.3%
2位 中国(239社) インド(274社) 中国(314社) 中国(299社) 71.2%
3位 ロシア(164社) ロシア(135社) ブラジル(151社) ブラジル(196社) 46.7%
4位 ブラジル(131社) ブラジル(133社) ベトナム(134社) インドネシア(147社) 35.0%
5位 ベトナム(109社) ベトナム(97社) ロシア(108社) ベトナム(146社) 34.8%
6位 タイ(69社) タイ(60社) インドネシア(83社) タイ(114社) 27.1%
7位 米国(54社) インドネシア(54社) タイ(84社) ロシア(95社) 22.6%
8位 インドネシア(27社) 米国(48社) 米国(38社) 米国(36社) 8.6%
9位 南アフリカ(19社) 南アフリカ(19社) マレーシア(20社) メキシコ(25社) 6.0%
10位 メキシコ(17社) マレーシア(18社)
メキシコ(18社)
台湾(18社) マレーシア(21社) 5.0%
フィリピン順位 記載なし 記載なし 記載なし 記載なし N.A

      (出所:JBIC発表資料より)