アジア通貨危機から20年、比など驚異的回復

改革・投資継続で耐性強化の必要性も:IMF

2017/07/25

   国際通貨基金(IMF)のブログホーム: https://blogs.imf.org/に、「アジア通貨危機から20年、何を見て何を学んだか」が掲載されている。執筆者は2015年3月にIMF 副専務理事に就任した古澤満宏氏である。その内容は次のとおり(以下、ブログホーム:掲載文とほぼ同文)。

 『今日アジアは世界の中で最も急速に成長している地域であり、世界の経済成長への最も貢献している。そのアジアから6カ国が主要20か国・地域(G20)に参加し、アジア地域の経済的及び社会的功績は広く知られるところである。しかし、20年前の1997年7月にアジア通貨危機が始まり、経済、金融、企業の問題があいまって信認の急激な失墜と同地域の新興市場国からの資本流出を引き起こした。危機は7月2日タイを中心に始まった。それまでのドルペッグ制が外れたバーツが急落、ついには韓国、インドネシア、その他の国にも拡大した。

 アジア危機から20年を迎え、アジア地域が今日では新たな経済的ショックに対処する準備が整っているかを問いかけるいい機会である。その問いに、「はい、もちろん。」と申し上げたいと思う。確かに、見過ごせない脆弱性が依然存在するのも事実である。特に、国によっては企業及び家計の債務が高止まりしている。それでも全体的には耐性が強化されている。

 アジア危機はその性質においても、またその深刻度においても前例のないものであった。対外経常収支の急激な変動、深刻な景気後退、増大する失業、そしてとりわけ貧困層が顕著だった生活水準の大幅な低下がその特徴である。例えば、インドネシアでは1年も経たないうちに13%以上も産出量が失われた。しかし、大多数の国々では初期の景気減速が非常に急激であったにもかかわらず、回復は驚異的であった。アジアは嵐を乗り切り過去10年にわたり世界の経済成長の主要な原動力として浮上した。

 アジア地域は現在金融危機に立ち向かう態勢がかなり整っている。実際、大規模な世界金融危機がすでに起こったが、景気後退をうまく切り抜けた。2008 年の世界金融危機では米国や欧州が大きな打撃を受けたが、アジアは穏やかな景気減速ですんだ。成長も依然底堅く、景気の一時的下降の後は再び急速な加速へと転じた。10 年経って何が変わったのであろうか。1997 年の危機を経験して、アジア諸国は強固な改革に取り組み根本的原因の対処にあたった。多くの国がより柔軟な為替相場を採用し、対外的脆弱性の縮小、金融セクターの規制及び監督の整備、民間部門の過剰債務の解消、そして国内資本市場を発展させた。こういった改革によって、アジアは2008 年の危機時には明らかにより強靭になっていた。

 危機後、IMF と国際金融システムも進化した。アジア危機の発生時、世界はIMF を通じて活動し救済プログラムを結集させた。確かにそれらの救済プログラムの当初の設計は状況に応じて調整が必要なものであった。例えば、財政引き締めの後で急激な景気後退を和らげるために財政を緩和するといったことがあった。危機対応と広範な改革が各国によって行われたが、それは信認の回復に寄与し急速且つ持続的な回復の基礎を築いた。

 その後数年間、IMF はこういった経験からの教訓を真剣に受けとめ、政策や政策キットの改善を行った。財政、通貨および金融の脆弱性の評価方法そして個別国プログラムの策定方法も大幅な改革を行った。この教訓は、その後に起こった2008 年の世界金融危機およびユーロ圏危機に応用された。例えば、我々は以前にも増して財政の脆弱性に注意を傾け、国、地域および世界規模でその評価に努めている。融資プログラムもより簡素化され、危機解決に向けて何が重要であるかに焦点をあて、貧困層や脆弱者を保護する社会政策上の支出の保護の優先度を高めている。IMF はまたそのガバナンス改革を進め、アジアの加盟国の投票権シェアおよび意見の反映度も高まっている

 国際金融のセーフティネットも、二国間スワップ協定及び地域レベルの金融取極を通して強化された。1997 年の危機以後、アジア諸国は、経済的防衛力を増強し地域レベルのセーフティネットを整備するなど重要な役割を果たしました。その中でも最もよく知られるのは「チェンマイ・イニシアティブのマルチ化(CMIM)」である。IMF もASEAN+3 諸国、CMIM、また他の国際機関と協力して国際金融のセーフティネットの強化に継続して努めている。加盟国もIMF に対し国別融資の追加資金のコミットを行い、IMF の融資能力はおよそ1 兆ドルに達している。

 20 年前に比べ、アジアのショックに対する耐性が随分と向上したが、同時に新たな課題にも直面している。一部の国における企業や家計の高い負債比率および急速な高齢化、先進国・地域における一層の内向き政策によって生じる危機などである。こういった状況の下で、アジアは将来に向けて引き続き改革と投資を行い耐性を強化していく必要がある。IMF は、加盟国の政策枠組みの強化やより包摂的な経済成長への取り組みを積極的に支援しているが、同時に、アジアは引き続き貿易と金融の域内および世界各国との一層の統合を促進し、今後も確実に世界の経済成長および安定化に大いに貢献できるようにする必要がある。なすべきことがまだ多くあるが、20 年前の通貨危機を経験したことで、アジア諸国が膨大な犠牲を払いそして改革努力を進めたことからもアジア諸国が新たな金融危機を乗り切る準備とより強固な態勢にあることを我々は確信している』(IMFブログホームより抜粋)。