アヤラ、電動車(EV)事業に注力方針表明

牽引役IMIの株価急騰、年初から2.7倍に

2017/09/18

フィリピンを代表するコングロマリットであるアヤラ コーポレーション(アヤラコープ)が、近年のフィリピンの自動車販売台数大幅増加、政府による自動車産業育成策(CARS)発動などを背景に、自動車事業を積極拡充しつつある。

  既に、100%子会社のACインダストリアル・テクノロジー・ホールディングス(アヤラ・オートモーティブ・ホールディングスから社名変更)を通じて、本田技研工業の四輪車製造・販売拠点であるホンダカーズ・フィリピン(HCPI)に12.9%出資、いすゞ自動車の四輪車製造・販売拠点であるいすゞフィリピン(IPC)に15%出資しているほか、販売会社ホンダカーズ・マカティ、ホンダカーズ・セブ、いすゞオートモーティブ・ディーラーシップ、いすゞセブの株式各々100%を保有している。 さらに、フォルクス・ワーゲンの販売なども行っている。
 
 このような既存の自動車販売事業にくわえ、新たな自動車および自動車部品の製造事業への投資機会も模索してきた。そして、2016年4月に、オーストリアのオフロードバイクメーカーであるKTMモーターサイクル(KTM)との合弁で、フィリピンにおいて、KTMバイクを製造販売することで合意した。アヤラコープとKTMは、合弁企業「KTMアジアモーターサイクル・マニュファクチャリング(KAMMI)」を設立、今年からKTMバイクの製造を開始した。製造は、傘下のエレクトロニクス企業インテグレイティド・マイクロエレクトロニクス(IMI)のラグナ工場の設備を活用してスタート、6月6日に、KAMMIの製造工場が正式オープンとなった。
 
 このIMIは、総合電子機器受託製造 サービス(EMS)プロバイダーで、世界的な有力グローバルOEM(相手先商標製品の製造会社)を対象にしてきた。開発・注力分野としては、飲み込むタイプの超小型カメラ等の医療用ハイテク部品・装置、ソーラー発電用部品・装置、LEDなどの代替エネ・省エネ用部品・装置などを挙げている。また、ドライバー補助システム、安全コントロール装置、電子点火モジュール、ハイブリッドや電動自動車用次世代インバーター・パワーモジュール等の先端オート部品にも注力してきている。
 
 IMIは先端オート部品注力の結果、世界的な自動車部品EMS企業ともなっており、世界の自動車部品企業トップ15社のうちの9社と取引がある。そして、世界最大級の自動車部品企業であるロバート・ボッシュ(ボッシュ)から、6年連続でEMS部門におけるPreferred Supplier(最重要取引企業)として認定されている。また、2015年には、ルネサス・エレクトロニクス(本社:東京都江東区豊洲)の先進運転支援システム(ADAS)向けサラウンドビューシステム初期開発キット「ADASサラウンドビューキット」に搭載の車載カメラを供給することでも合意した。IMIの2016年の自動車部品EMS事業売上高は前年比7.9%増加した。米国カリフォルニア州を拠点とする先端ビジネス情報調査・提供会社「ニューベンチャーリサーチ社」による自動車部品EMS売上高ランキングにおいて、IMIは世界ベスト10入り常連企業となっている。すなわち、IMIは電子系自動車部品企業としても国際的有力企業となりつつある。

アヤラコープは、今年3月、保有するIMI株式50.6%をACインダストリアル・テクノロジー・ホールディングスに譲渡すると発表した。アヤラグループ内での所有有権変更であるが、ACインダストリアル・テクノロジー・ホールディングスの展開する自動車販売事業とIMIの自動車部品事業が統合され、ひいてはアヤラグループ自動車事業基盤の強化につながると期待される。
 一方、IMIは4月7日開催の株主総会において、定款の主たる目的の変更を決議した。具体的には、これまでのエレクトロニクス製造・組立のほか、自動車、バイク、ソーラーパネルを含む全ての非エレクトロニクス製品。部品・素材の製造・組立が加えられた。さらに、ACインダストリアル・テクノロジー・ホールディングスは、6月5日、ドイツの自動車有力部品企業であるMT misslbeck technologies gmbh(MT)の株式94.9%を2,680万ユーロで取得した。アヤラグループの自動車事業基盤拡充が一段と進展しつつあると言えよう。

 このようななか、アヤラコープの会長兼CEOのハイメ・アウグスト・ゾベル・デ・アヤラ(ゾベル)氏は、9月15日、ブルームバーグのインタビューに対し、「ガソリンエンジン時代の終焉が近づいてきている。今後の自動車の推進力はエレクトロニクスである。EVへの転換は世界的な潮流である」と強調、電動車(EV)事業に本格参入・注力する意向を表明した。

 上記のようなアヤラグループのEV事業強化の動きのなかでIMIが中心的役割を果たしていきそうなこと、最近の業績が好調(2017年上半期14%増益)なことなどから2017年初からIMIの株価が急騰している。9月15日のフィリピン証券取引所(PSE)での終値は16.54ペソで、2016年末の終値6.08ペソから約2.7倍と大幅上昇している。2017年4月末の7.70ペソからも5カ月半で2.2倍となっており、PSE株価指数や工業株指数を大幅に上回るパフォーマンスとなっている。

  2017年9カ月半の各種株価指数とアヤラコープやIMI株価の動き

時期など

PSE株価指数

全株指数

工業株指数

アヤラコープ

IMI

16年12月末

6,840.64

4,156.70

10,650.20

730.50ペソ

6.08ペソ

17年9月15日

8,180.85

4,836.33

11,367.26

928.50ペソ

16.54ペソ

上昇率

19.6%

16.4%

6.7%

27.1%

172.0%

 (出所:PSE取引記録から作成)