ADB、今年の比成長率予想を2%へと下方修正

新型コロナ次第で更なる減速も、景気後退観測も増加

2020/04/06

 アジア開発銀行(ADB)は、4月3日、「アジア経済見通し2020年版」(ADO2020)を発表した。ADOはADBが毎年春に発表している代表的報告書の一つである

 ADO2020において、アジア開発途上国の国内総生産(GDP)実質成長率は、2019年実績5.2%に対し、2020年2.2%、2021年6.2%と予想されている。2020年予想は、これまでの予想5.5%から3.3%ポイントの大幅下方修正となっている。当然のことながら、新型コロナウイルス感染の影響で2020年は急減速すると見ている。そして、新型コロナウィルスが終息し経済活動が正常化すると仮定して、2021年に回復すると見込んでいる。
 
 大きな影響力を有する中国の2020年の成長率は2.3%に低下、2021年に7.3%と通常の水準を超えた回復を示し、その後平常の水準に戻ると予想されている。インドでは、最近実施された減税や金融セクター改革の効果が、新型コロナウイルスの悪影響で相殺され、2020年度の成長率は4.0%へ鈍化すると予想されている。2021年度は6.2%に回復する見込みである。

 東南アジア(東ティモール含む11カ国)の成長率に関しては、下表のとおり、2020年実績4.4%に対し、2020年1.0%、2021年4.7%と予想されている。2020年はベトナムが4.8%、ミャンマーが4.2%と底堅い成長を続けると見られる一方、タイがマイナス4.8%へと急減速すると懸念されている。

 フィリピンの成長率に関しては、2018年が5.9%と8年ぶりの低水準となったが、2020年は2.0%へと急減速すると予想されている。昨年9月時点の予想6.0%からは4.0%ポイントの大幅下方修正である。新型コロナウイルス感染の影響、特にGDPの約70%を占めるルソン全域対象の隔離措置などが響く。フィリピン経済を下支えしている海外からの送金が急減する懸念もある。経済活動正常化という前提で、2021年は6.5%へ回復すると予想されている。

 フィリピンのインフレ率は、2019年実績2.5%に対し、2020年2.2%、2021年は2.4%へとさらに低下すると予想されている。経常収支対GDP比率は2019年実績マイナス0.1%に対し、2020年マイナス0.3%、2021年マイナス1.4%、すなわち、経常収支赤字が拡大すると予測されている。


東南アジア等の実質GDP成長率推移(単位:%、予想はアジア開発銀行)
国名など 2015年 2016年 2017年 2018年 2019年 2020年予 2021年予
アジア開発途上国 6.1 6.1 6.2 5.9 5.2 2.2 6.2
 東南アジア 4.7 4.9 5.3 5.1 4.4 1.0 4.7
   フィリピン 6.1 6.9 6.7 6.2 5.9 2.0 6.5
   ブルネイ -0.4 -2.5 1.3 0.1 3.9 2.0 2.0
   カンボジア 7.0 6.9 7.0 7.5 7.1 2.3 5.7
   インドネシア 4.9 5.0 5.1 5.2 5.0 2.5 5.0
   ラオス 7.3 7.0 6.9 6.2 5.0 3.5 6.0
   マレーシア 5.1 4.4 5.7 4.7 4.3 0.5 5.5
   ミャンマー 7.0 5.9 5.8 6.4 6.8 4.2 6.8
   シンガポール 2.9 3.2 4.3 3.4 0.7 0.2 2.0
   タイ 3.1 3.4 4.1 4.2 2.4 -4.8 2.5
   ベトナム 6.7 6.2 6.8 7.1 7.0 4.8 6.8
  東ティモール 3.1 3.6 -3.8 -0.6 3.4 -2.0 4.0
(出所:アジア開発銀行資料より作成)

  フィリピンのマクロ指標推移(単位:%、予想はアジア開発銀行)
  項目等 2015年 2016年 2017年 2018年 2019年 2020年予 2021年予
GDP成長率 6.1 6.9 6.7 6.2 5.9 2.0 6.5
インフレ率  0.7 1.3 2.9 5.2 2.5 2.2 2.4
経常収支対GDP 2.5 -0.4 -0.7 -2.7 -0.1 -0.3 -1.4
輸出伸び率 -13.3 -1.1 21.2 0.3 2.7 0.8 6.3
輸入伸び率 -1.0 17.7 17.6 11.9 -3.0 1.2 10.3
(出所:アジア開発銀行資料より作成)

 
なお、新型コロナウイルス感染拡大を背景に、国際機関や有力調査機関などのフィリピンの2020年GDP成長率予想の大幅下方修正が続いている。

 世界銀行は、3月30日発行の「東アジア・大洋州地域半期経済報告書」2020年4月版におけるベースライン予想において、フィリピンの2020年GDP成長率を3.0%とし、1月時点の予想6.1%から大幅下方修正した。2021年予想については、6.2%でこれまでと同水準であった。ただし、このベースライン予想は、2020年第3四半期から新型コロナウイルス感染拡大の影響が弱まり、経済が回復に向かうという想定に基づいている。新型コロナウイルス感染拡大ピッチがさらに高まり、ルソン地域などでの地域封鎖措置などが長引くという低成長シナリオでは、2020年はマイナス0.5%という1998年以来22年ぶりのマイナス成長に陥ると予想されている。そして、2021年も4.1%の成長にとどまると予想されている。

 一方、野村証券グローバルリサーチは、フィリピンの2020年GDP成長率予想を、これまでの5.6%から1.6%へと大幅下方修正した。しかも、1.6%成長予想は、ルソン全域における強化されたコミュニティー隔離措置が当初予定通り、4月中旬で解除されることが前提となっている。ルソン全域の隔離措置が5月まで続き、隔離措置が全国的なものに拡大されるならば、アジア通貨危機時の1998年以来22年ぶりのマイナス成長に陥る可能性もあるとしている。すなわち、新型コロナウイルス感染問題が更に深刻になれば、経済活動の混乱ははるかに広範囲に及び、大規模な失業、中小企業を中心とした倒産、銀行の融資縮小などにつながり、1.9%程度のマイナス成長に陥るとも懸念している。

 フィリピン国家経済開発庁(NEDA)は、3月19日に「COVID-19パンデミックのインパクト」というタイトルのレポートを作成、3月24日に公表した。NEDAはそのレポートにおいて、2020年のフィリピンGDP実質成長率はマイナス0.6%~+4.3%と予想している。予想の上限の4.3%達成の条件は、十分な景気対策が実施されルソン全域での「強化されたコミュニティー隔離措置(ECQ)」が当初予定通り1カ月で済み、ECQ発動の必要性が他地域に及ばないことなどとしている。
 ECQが1カ月を超えて延長されなければならなかったり、1カ月間のECQ実施後も新型コロナウイルス感染拡大に歯止めがかからないような場合は、下限であるマイナス0.6%という予想でも高すぎる、すなわち、マイナス幅が更に拡大すると警告している。