住友鉱の比ニッケル生産堅調、19年度5%増の5万トン
20年度も同水準目標、副産物クロマイトの回収開始予定
2020/05/26
住友金属鉱山(住友鉱、本社:東京都港区)は、フィリピンでの事業基盤拡大、資源高度有効活用を推進してきた。住友鉱の事業は、現在は新型コロナ感染拡大やそれに伴う世界経済の停滞などの影響を受けているが、フィリピンでのニッケル関連事業は比較的底堅く推移している。
世界のニッケル資源の確保には、低品位鉱石からのニッケル分の回収が必須となっている。住友鉱は従来回収困難であった低品位のニッケル酸化鉱からニッケルおよびコバルトを回収する技術であるHPAL(High Pressure Acid Leach =高圧硫酸浸出)の商業生産化に世界で初めて成功し、2005年からフィリピンのコーラルベイ・ニッケル・コーポレーション(CBNC、所在地:パラワン島)で、ニッケル中間製品であるMS(ニッケル・コバルト混合硫化物)の生産を開始した。2009年4月にはCBNC における第2工場の垂直立ち上げを完了し、同社の生産能力を年間1万トンから2万4,000トン(ニッケル量換算)へ増加させた。CBNCの現在の資本金は5億8,750万円、出資比率は住友鉱54%、三井物産と双日が各々18%、ニッケル・アジア(NAC)10%となっている。
このような実績を背景として、住友鉱はHPAL技術を用いたタガニート・プロジェクトを2013年に完成させ世界トップクラスのニッケル製錬メーカーの地位を固めた。タガニート・プロジェクトにおいては、傘下のタガニートHPAL社(THPAL社)がミンダナオ島北東部タガニート地区にて、MS(ニッケル品位約57%)を年間3万トン(ニッケル量換算、以下同様)から3万6,000トンへと高めている。THPAL社の現在の資本金は40億9,500万円、出資比率は住友金属鉱山75%、ニッケル・アジア(NAC)10%、三井物産15%となっている。
住友鉱の2019年度(2019年4月~2020年3月)の決算補足資料などによると、2019年度のフィリピンでの生産量(ニッケル量換算)は前年度比(以下同様)4.7%増の5万1,400トンに達した。内訳はCBNCが12%減の1万9,100トン、THPAL社が17.9%増の3万2,300トンであった。3月央からの新型コロナウイルス感染対応策としての地域隔離措置のもとでの一時操業停止の影響を受けたが、2018年度上期にTHPALで多発した設備トラブルが改善されたこともあって、生産量が増加した。
2020年度については、現時点で新型コロナウイルスの影響の規模や終息時期等を予測することは極めて困難であるが、CBNC生産への新型コロナウイルスの影響は軽微であり、THPAL社も感染防止対策を実施しながら操業を本格化させる計画である。現時点で、住友鉱は2020年度の比の生産量を2019年度と同水準の5万1,400トンと仮試算している。内訳はCBNCが12.6%増の2万1,500トン、THPAL社が7.4%減の2万9,900トン。THPAL社は一時操業停止の影響が前年度より大きくなりそうである。
住友鉱は、HPALからの新たな有価金属の回収を事業化し、競争力強化に努めつつある。具体的には、希土類元素(レアアース)の一つであるスカンジウムの生産である。スカンジウム(元素記号:Sc)は希土類元素の一つで、1879年に発見された。銀白色の金属で比重は2.99。アルミニウムの強度、耐熱性、耐食性を高め るための添加物、固体酸化物形燃料電池の電解質のほか、メタルハライドランプ、アルカリ電池の電極等に使用される。
上記のとおり、フィリピンではHPAL法によりニッケル・コバルト混合硫化物(MS)が生産されているが、その原料鉱石中に微量のスカンジウムが含まれている。住友鉱は、MSの製造工程からスカンジウムを効率的に回収する技術を確立、2019年1月から商業生産開始した。
また、主にステンレス鋼の原料となるクロマイトの回収事業へも参入しつつある。THPAL社にクロマイトの回収プラント(総投資額35億円)を建設、THPAL社のMS製造工程から回収する。2019年度に13億円投資、2020年度も10億円投資、2020年中の商業生産開始を目指している。
住友鉱は、ニッケル・コバルトのみならずスカンジウムやクロマイトなどの副産物を効率的に回収することでHPAL 技術のコスト競争力を高める。また、ニッケル事業の主要な製品供給先であるステンレス業界向けに新たな素材を提供することで、世界のニッケル事業における存在感を更に向上させて行く方針である。
<HPAL(High Pressure Acid Leach:高圧硫酸浸出>
高温高圧のオートクレーブで硫酸を使って酸化鉱からニッケル、コバルトを抽出する。オートクレーブ内の状態をコントロールすることが難しいため、商業的に成功した例がなかったが、制御法など多くの技術的課題を克服、ニッケル実収率の向上とエネルギー効率を改善、世界で初めて低品位ニッケル酸化鉱の経済的な製錬法が確立できた。また、蒸気回収の技術改善や硫化反応の低温化によって設備トラブルが減少して稼働率が向上し、海外での操業にも適した信頼性の高いプロセスが実現した。さらに、亜鉛を除去する選択硫化を世界で最初に実用化し、高純度なニッケルの生産が可能となった。
世界のニッケル資源の確保には、
このような実績を背景として、
住友鉱の2019年度(2019年4月~2020年3月)の決算補足資料などによると、2019年度のフィリピンでの生産量(ニッケル量換算)は前年度比(以下同様)4.7%増の5万1,400トンに達した。内訳はCBNCが12%減の1万9,100トン、THPAL社が17.9%増の3万2,300トンであった。3月央からの新型コロナウイルス感染対応策としての地域隔離措置のもとでの一時操業停止の影響を受けたが、2018年度上期にTHPALで多発した設備トラブルが改善されたこともあって、生産量が増加した。
2020年度については、現時点で新型コロナウイルスの影響の規模や終息時期等を予測することは極めて困難であるが、CBNC生産への新型コロナウイルスの影響は軽微であり、THPAL社も感染防止対策を実施しながら操業を本格化させる計画である。現時点で、住友鉱は2020年度の比の生産量を2019年度と同水準の5万1,400トンと仮試算している。内訳はCBNCが12.6%増の2万1,500トン、THPAL社が7.4%減の2万9,900トン。THPAL社は一時操業停止の影響が前年度より大きくなりそうである。
住友鉱は、HPALからの新たな有価金属の回収を事業化し、
上記のとおり、フィリピンではHPAL法によりニッケル・
また、主にステンレス鋼の原料となるクロマイトの回収事業へも参入しつつある。THPAL社にクロマイトの回収プラント(総投資額35億円)を建設、THPAL社のMS製造工程から回収する。2019年度に13億円投資、2020年度も10億円投資、2020年中の商業生産開始を目指している。
住友鉱は、ニッケル・
<HPAL(High Pressure Acid Leach:高圧硫酸浸出>
高温高圧のオートクレーブで硫酸を使って酸化鉱からニッケル、コバルトを抽出する。オートクレーブ内の状態をコントロールすることが難しいため、商業的に成功した例がなかったが、制御法など多くの技術的課題を克服、ニッケル実収率の向上とエネルギー効率を改善、世界で初めて